君不在の詩

馳せた思いが戻ってこない。君はいるのだろうか。応答願う。

鳳凰三山>

 先週の話。
 
 23時発の「かいじ」に乗って甲府へ。アナウンスのアクセントで「甲斐路」のことだと知る。情報開示の開示でなく、開示サービスの開示と同じアクセントだ。
 
 甲府でバスの発車まで約3時間待たなくてはいけないので、武田信玄の像とか舞鶴城公園とかを見ていたんですが雨が降ってきたんで駅へ引き返した。駅の通路には登山客を中心に30人くらいは寝ていただろうか。 

 老いも若きも通路で就寝。
 甲府駅は懐が深い。
 
 混ざって寝ようかとも思ったけど、シュラフやマットを出すのに荷を解かなきゃならないのがめんどいのでひたすら世界平和について考える。答えは出なかったが、世界が平和になるためには先ず自分が幸せにならないといけないことは分かった。
 
 乗車券は車内で販売しますと言われてバスに乗り込んだけど、山梨交通の切符販売システムがひたすらローテクなことに驚く。演出なのかもしれない。
 
 夜叉神峠登山口に5時くらいに到着。出発5時40分。前後に何人か登山者。その中にやけに健脚なおじさんがいて、この人と抜いたり抜かれたりって感じになったのだけど、苺平あたりを最後に離されてしまった。
 
 雨は降ったりやんだり、時折雪に変わった。雨具を着けるほどじゃなかったけど。途中、カモシカ風の動物と遭遇したけど、例のごとくデジカメが調子悪くてシャッターチャンスを逃す。
 
 南御室小屋でテント泊しようと思ってたのだけど、到着してみればまだ10時。さすがに暇を持て余すと思って鳳凰小屋まで行くことにした。テントを張って良い所は決まっていて、行程を考えるとほとんど選択の余地が無い。鳳凰小屋は山頂の向こう側だ。

 登っている間ずっと感じてたんだけど、なんだか力が入らない。昨日の晩御飯がマック(チキンタツタが売り切れでやむなくチキンフィレオ)だったせいなのか、寝不足のせいなのか、寒さのせいなのか、なんだかカロリーが筋肉の動きに変換されない感じ。腕なんかしびれてたもんね。
 
 そんなこんなで薬師岳の山頂に到着。雲が晴れず眺望悪し。雲がかかって幻想的な風景なんだと自分を慰める。この薬師岳の後に、鳳凰三山最高峰の観音岳オベリスクが格好良い地蔵岳が控えていて、ここから先は縦走することになる。登り一辺倒でないので足が助かる。

 今回一番の目当ては地蔵岳オベリスクだ。去年甲斐駒ケ岳から見たそれは、この世に数多ある突起の中でも最も格好良い突起ひとつである。それに登ろうというのだ。

 先端のとんがりがオベリスク
 
 先ず登り。ザイルが掛かってるという情報をインターネットで見かけたので楽勝じゃんと思ってオベリスクの下まで行ってみたんだけど、ザイルのひとつ手前の岩で立ち往生。そもそもこの岩を登れないよ!て思ったけど、よく見れば必要な所にはちゃんと凹みがあって登れなくはない。落ちたら只じゃ済まないけど。ノースフェイスのダウンに容赦なく引っ掛かる岩肌にもめげずその2メートルくらいの岩を登りザイルの下へ。ザイルに体重を掛けてみたところ大丈夫そう。何本もあるし。ここでも岩にはつま先が引っ掛けられるように凹みが設けてあった。落ちたら只じゃ済まないけど。
 
 そういえば一昨日の晩、初めて実家以外で兄弟3人が集まって食事をした、初めてだ。いわゆる死亡フラグというやつだ。両親の顔を思い出した。そういえば愛犬のことは思い出さなかった。最後に、最期に思い出すのはやはり家族なのかもしれない。理由も無く僕を愛してくれた家族。理由も無く僕が愛した家族。家族がいて良かった。という感じでなんとなく登りきった。

 雲がかかっていて何が見えたわけでも頂点に何があったわけでもなかったけど、これまでにない心拍数。血液を体に巡らす以外の別の理由で心臓が動いている。ザイル側から見て高いのは左側の岩だ。携帯の電波がかろうじて届いたので、その岩に座って両親にオベリスクに登った旨、これから下りる旨、落ちたら申し訳ない旨メールした。

 そして下り。下りるにあたってザイルに体重を預ける一手目が緊張のしどころ、そっから先は凹みにどっちの足を運ぼうかって決めるだけ。無事地に足が付いた。無事に生還した旨もメールしようとしたけど今度は電波が届かなくてもどかしかった。それが14時くらい。
 
 そこから鳳凰小屋までがーっと下ってがーっとテント張ってがーっと御飯食べて18時くらいに就寝。
 
 ちなみに食べたのは「尾西の梅わかめご飯」だ。梅わかめ以外にも種類があるけど、マイフェイバリットはやはり梅わかめだ。

 晩御飯風景。
 バランスよりカロリー重視。
 
 お湯を入れて15分、梅わかめ御飯の完成。何が良いかって、その袋をインスタントみそ汁に使い回せる。その後インスタントココアにも使い回したもんね。しかもチャックが付いててゴミ袋のなかで残った汁やココアの甘い香りが漏れる心配もなし。ちょっと高いけど。
 
 シルバーウィークの木曽駒の時とは違い、風がなく快適な夜。けどちょっと寒い。夕方の時点で摂氏3度。明け方は何度まで下がったんだろう。テントに霜が付いてたから氷点下にはなったんだろう。職を失っても東京くらいならなんとか生きて行けそうだ。
 
 起きること数回、夜が明けた。天気が良い。睡眠時間もたっぷり取れた。消耗した足も取り戻した。下山する予定だったけど、今日なら景色が良いはずと思い、昨日来た道を今日引き返すことに。6時出発。
 
 今日のオベリスクは青空に突き出している。去年父と登った甲斐駒ケ岳が見える。小学生の頃家族で行った仙丈ヶ岳も見える。観音岳まで来ると富士山と北岳も素晴らしい。日本の山の標高トップとその次だ。八ヶ岳も裾野まで見えた。
 
 ひとしきり堪能した後、薬師岳山頂から中道ルートで青木鉱泉に下りることに。下りだして間もなく見晴らしの良さはなくなってしまったけど、おかげで下りることに専念出来た。
 
 下りのしんどさは膝のしんどさだ。位置エネルギーが運動エネルギーに変わり、それを膝で受ける形になる。下りで走っていいのは目の前で登りに転じる時だけ。それ以外で走ろうものなら膝に来る。走らなくても徐々には来るんだけど。膝が悲鳴を上げている状態を個人的に「膝がぺろんちょになる」と表現しようと思う(気に入ったら使ってください)。というわけで膝がぺろんちょになって来てやばいって思ってたんだけど、途中で未舗装ながらも林道になったんで助かった。林道は所詮車が走れる道。人はキャタピラでも登れない道を登り、そして下るのだ。
 
 青木鉱泉に着くと12時15分発のJR韮崎駅行きのバスが出発間近。次はなんと15時発だから、温泉に入れるらしいけど迷わず乗車。韮崎駅まで約1時間、そうは言ってもやはりテクノロジーは凄いなあと思った。てゅーか山の上で富士山を有り難がって見てたけど、下界からでもはっきりくっきり見えるじゃん、山梨県だものね。

 韮崎駅
 富士山が見えるホーム。
 
甲府から14時8分ちょうどの特急あずさで帰京。16時半くらいに自宅に到着。4畳そこそこのこの部屋もテントに比べたら幾分広い感じだ。